夢を見る・・・
その王は一人だった。
皆畏怖はすれども敬意は表さず、その王にただ付き従っていた。
国を守る為に最善の術を選び続けた。
しかし、その術はことごとく白眼視され一人去り二人去り次々と身近なもの達は去って行った。
それでも王は憎まれても嫉まれてもただ己の信じるままに突き進んだ。
そう、脳裏に浮かぶ朝焼けの空の下、胸を張って空の果てまで見通す彼女の姿のままに。
結果、国は守りきれた。
しかし、王に待っていたのは転落と破滅だけだった。
だが・・・それでも王に悔いは無い。
王の誓いを・・・選定の時より抱き続けてきた想いを最後まで守れたはずだから・・・
いや、悔いの無い筈だった・・・
だが・・・今の王には・・・

聖杯の書七『同盟関係』

眼を覚ます。

時間は六時。

「ふう・・・」

習慣は恐ろしい。

今日は日曜日で早く起きる必要など何も無いと言うのに。

「それにしてもあの夢は・・・」

おそらくセイバーの過去だろう・・・

サーヴァントとマスターは過去を夢の形で共有できるとゼルレッチ老から聞いた事がある。

「・・・・・・」

やるせなく感じた。

どうせなら幸福になって欲しい。

己を捨てて一つの道を進み続けた彼女に労いが無ければそれこそ救われない。

まあそれを言えば俺にも言える事だが俺は労いと言うよりも最良の盟友と恩師を得た。

だからそれで満足しているし、これが労いだと思っている。

思案に暮れているのもなんなので、起き上がろうとするがその際、腕に重みを感じる。

ふと布団を見れば、俺自身と思われる膨らみの他に、右にもある膨らみ。

思いっきり嫌な予感がして布団の中を覗いてみれば。

「!!!」

見なければ良かった。

布団の中には俺の腕にしがみ付く銀髪。

「むにゃ〜」

「イ・・・イリヤ?な、何で」

「イリヤスフィールなら夕べシロウが就寝した後潜り込みました」

「!!!」

頭上から声がする。

見上げれば俺を見下ろしているセイバー。

鎧姿ではないが、蒼を基調としたドレスを着ていてどうにも場違いを感じる。

「セ、セイバー・・・」

「おはようございますシロウ」

「あ、ああ、おはよう・・・って、なんでセイバーがここに?」

「何故とは当然の事、サーヴァントはマスターを守るのが使命。故にシロウの護衛に付いていました。何よりもマスターが寝ている時が最も危険な時です。ですのでこうしていたのですが」

「い、いや、そうじゃなくて・・・俺なら大丈夫だって。俺の実力は良く知っていると思うが」

「確かにシロウの実力は高い。ですが、夕べこうも容易くイリヤスフィールの侵入を許したのです。ここはやはり私が・・・」

確かに昨夜はそんな失態を許したがいつもなら気付く筈。

おそらく『投影反映』の疲労が出たのだろう。

「と、とにかく・・・今後は大丈夫だから・・それにセイバー寝れないだろう?」

「ご心配いりません。サーヴァントは基本的に睡眠は取りません」

「・・・ともかく、今後は護衛はいいから」

そう言うとイリヤを起こすのも可哀想なのでそっと腕を抜き取る。

そして音を立てないように部屋を後にする。

「ですがシロウ・・・」

「もう知っていると思うがこの家には侵入者の感知には極めて感度の高い結界が張られている。それを使えば俺の傍を四六時中守ることなんて無いから」

「・・・・・・若干不満が残りますが止むを得ません。シロウの言葉に従いましょう」

「そうしてくれ。本気で助かるから。さてと、朝食はどうするか・・・」

一旦セイバーと別れ、献立を考えながら居間に入ると既に桜がいた。

「あ、おはようございます先輩」

「おはよう桜、今日は日曜だしそんな早起きする必要は無いんじゃないのか?」

「ええ、そうなんですけどやっぱりいつもの習慣で・・・」

お互い様と言う事か。

「・・・」

不意に桜が痛ましい視線を俺の手にむける。

「?・・・ああ、悪い」

寝惚けていたのかグローブを付け忘れていた。

「朝から嫌なもの見せてすまなかった」

改めてグローブを填めてから桜に詫びる。

「いえ、そんな・・・」

桜を逆に困らせた様だ。

「さてと、朝飯はどうする」

「先輩、今日は私が作ります。先輩はのんびりしていて下さい」

「だが・・・」

「先輩昨日は大変だったんですからゆっくりとしていて下さい」

さて困ったが桜の好意を無駄にするのも憚られるので、

「じゃあ頼むよ桜。俺は道場の方にいるから何かあったら呼んでくれ」

「はい。じゃんじゃん頼んじゃって下さい」







一先ず朝食の準備は桜の任せて俺は道場に向かう。

が、その途中の中庭で俺は発見した。

「・・・・・・」

そこに鎮座する鉛色の凶戦士を。

「・・・・・・」

取り敢えず俺はそのまま無視した。

これ以上見ていれば精神上宜しくない。

道場に着いた俺は入念に柔軟体操をいつもの様にこなす。

体が温まってきたと判断してからが本来の鍛錬となる。

壁に立てかけてある、二メートル近くの長柄木刀を手に取る。

それから何時もの様に

「はっ!!」

掛け声と共に木刀を振るう。

そこから一心不乱に振るう。

槍を

矛を

長刀を

戟を

長物と一括りで呼ばれる武器を次々と思い浮かべて突き、振るい、払い、空想の敵を引き寄せ薙ぎ払う。

無論普通の剣での鍛錬も行う。

しかし、ここ最近ではこういった長物の使用を想定した鍛錬が多い。

と言うのも、今現在、俺が投影出来る武器は圧倒的割合で長物が多いのだ。

ゲイボルク・グングニル・方天戟・青竜堰月刀・蜻蛉切り、エトセトラ、エトセトラ・・・宝具、業物、無銘・・・全て合わせればそれこそ全体の六割から七割に届くだろう。

(どうして、こうも長物が多いのか)

そう思いながらも一心不乱に振りぬく。

まあ結論は間違いなく師匠達の趣味に違いなのだが。

鍛錬にも力が入り、その為か気付かなかった。

何時の間にか観客がいた事に。







「ふあああ・・・」

イリヤが眼を覚ましたのは士郎が起き上がった二時間後だった。

「あれ?シロウ?何処に行っちゃったんだろ?」

そう言いながらイリヤは自室を出ると中庭で佇んでいる、自らの僕に尋ねる。

「ねえバーサーカー、シロウ見てない」

バーサーカーは静かに離れの道場を指差す。

「あそこなのね?ありがとうバーサーカー」

そう言ってイリヤは一目散に向かう。

その入り口には既に先客がいた。

「あら?セイバーにリンじゃない。何してるの?」

「あらイリヤおはよう。ちょっと士郎の様子をね」

道場内で士郎は一心不乱に自身の身長より長い棒を振り回していた。

「・・・」

「ねえアーチャー、どう見る?」

凛の呼び掛けに応える様に傍らに赤い弓兵が現れる。

「忌々しい話だが、衛宮士郎の動き、構え・・・全て我流でありながら理に適っている」

「そうですね。アーチャーの言う通り、シロウの動きは一切の無駄を省いた戦い慣れている者の動き。あの技量の高さが昨日、バーサーカーと対等に渡り合った秘訣なのでしょう」

アーチャーがやや苦虫を噛み潰したように、セイバーが自分の事のように誇らしげに士郎の動きを評する。

「どうも腑に落ちないのよね」

だがそこに凛の声が重なる。

「腑に落ちないってリンどうしたの?」

「全部に納得いかないのよ。士郎があれだけの技量を何処で会得したか?ありとあらゆる宝具を無国籍に持ち合わせているけど何時、どうやってオリジナルと接触したのか?そしてあいつの師匠って誰なのか?今思い付いただけでもこれだけあいつに関する疑惑があがっているのよ」

「ではリンはシロウの事は信用できないと?」

「そこまで言っていないわよ。ただ、士郎の場合、全部を語っている訳じゃないからそれが少し寂しくてね」

「そうですね」

そこへ何時の間にか現れた桜が同意する。

「先輩、時折というかいつも何かを隠している様な気がしますから」

そう言って少しだけ寂しげに笑う。

そのまま一同は士郎の鍛錬を静かに眺めていた。







「おおおりゃあああ!!」

最後に掛け声と共に方天戟を想像して横に薙ぎ払う。

「ふう・・・」

時間にして約二時間半、短いがそれはまた午後や夜に回すとして朝食にするとしよう。

俺は長柄木刀を元の位置に立て掛けて、あらかじめ用意したタオルで汗を拭う。そして居間に向かおうと振り向くと何時の間にか全員そこにいた。

「あ、あれ?皆?」

「おはよう士郎」

「おはよう!シロウ」

「ああ、おはよう凛、イリヤ・・・あれ?」

何気に挨拶をかわした俺だったが、不意にセイバーの服装が違う事に気付いた。

白の上着に青のスカート、胸元には青のリボンが結ばれている。

「セイバー、どうしたんだ?その服」

「これですか?リンから頂きました」

「ええ、それいらなかったからいっその事セイバーにあげようと思ってね」

「シロウどうでしょうか?この服装は変ではないでしょうか?」

「いや、とても似合っているぞセイバー」

「そうですか」

ほっとしたように微笑むセイバー。

「先輩朝ご飯出来ています」

と、そこへ割り込むように桜が言ってくる。

「ああそうか。じゃあ行くと・・・ああ、先に行っていてくれ。汗を流して着替えてから行くから」

そう言って風呂場に飛び込むと、昨夜の残り湯で汗を流してから着替えなおす。

そして、居間に戻ると既に皆食事を始めていた。

「桜、醤油取って」

「はい姉さん」

「ふむ・・・これは」

「ねえこれってどう食べるの??」

健啖だな皆、そう言えば・・・

「凛、桜ライダーとアーチャーは?」

「基本的にサーヴァントは食事なんて取らないわよ」

「じゃあセイバーは?」

「私も食事は必要ありませんがサクラの食事が余りに素晴らしかったもので」

「そんな・・・まだまだ先輩には及びません」

「!!シロウの食事も素晴らしいのですか?」

「そうね。士郎の料理の腕はプロ級と言っても過言じゃないわね」

「シロウ!!」

凛の言葉を受けてセイバーが俺に身を乗り出す。

「な、なんだ?」

「次は是非ともシロウの料理を!」

「わ、判ったからとにかく落ち着けって」

セイバーの鬼気迫る迫力に引き気味に答える。

「シロウ!!私もシロウの料理食べたい!!」

それにつられてイリヤも身を乗り出す。

「わ、判ったって・・・」

俺としてはそう答えるしかなかった。

そして俺が食事を始めるとなぜか一人分多い。

「あれ?桜なんで一人分多いんだ?」

何か重要な事を忘れているのだがそれが何かわからずそう尋ねる。

しかし、桜が答えるより早く玄関からその答えがやって来た。

「おっはよーーー!!」

この瞬間、俺は自らの愚かさを嘆いた。

藤ねえが飛び込んできた。

「「おはようございます藤村先生」」

「うん、おはよう遠坂さんに桜ちゃん。それよりも士郎ご飯ご飯」

「はいはい」

やむを得ず藤ねえに飯を盛る。

瞬く間に山盛り三杯食べると、藤ねえは俺が最も恐れる質問をしてきた。

「ねえ士郎。ところでそっちの外人さん二人誰?」

来た。

ふと視線を周囲に向けるが凛も桜も我関せず食事を続けている。

まさしく孤立無援だが・・・俺も引く訳にはいかない。

「ああ、藤ねえ、こっちの金髪の女の子は親父の友人の娘さんでセイバーって言う子だ。で、こっちの銀髪の子はイリヤって言う・・・親父の娘さんだ。で、二人とも暫く家に滞在する事になった」

「へえそうなんだ〜切嗣さんの娘さんなの?」

「ああ、色々と事情があって今まで会えなかったらしいけど」

おやおかしいな?藤ねえが爆発しない??

「それと士郎、どうして遠坂さんに桜ちゃんがいるの?日曜とかは来なかったじゃないの?」

「ああ、凛と桜については自宅の関係で夕べから家で泊まって行っている」

「そうなの?・・・じゃあ失礼の無い様にしないといけないわね?」

「ああ」

爆発しない・・・そうか藤ねえもやっと大人になったのか・・・

しかし、その希望は脆くも崩れた。

「・・・」

藤ねえが考え込んでいる。

そうか・・・大人になったのではなく認識が遅れただけだったのか・・・と言うか直ぐに認識しろよ・・・まだ健忘症なんて歳じゃないだろう。

「やばい、皆耳塞げ」

俺の声に凛と桜は素早くイリヤは首を傾げながらも習って耳を塞ぐ。

しかし、セイバー、霊体化しているアーチャー、ライダー、は一様に『何の事だ?』と塞ぐ気配も無い。

バーサーカーは・・・おそらく言っても判らないだろう。

まさにその直後

「・・・・・・・・・・・・・って!!!!士郎!!!!娘ってどう言う事よ!!!!!!滞在ってどう言う事よ!!!泊まったってどう言う事よ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

ぐおおおおおおお!!!

か、過去最大級のタイガー大暴走が・・・発動しやがった・・・

耳を塞いでもこの破壊力とは・・・

バーサーカーの一撃に匹敵するぞ・・・この威力・・・

あ、凛に桜それにイリヤ気絶している。

おまけに・・・完全に油断していたセイバーにアーチャー・ライダーが痙攣している・・・あ、バーサーカーまでが死んでる・・・いや、死にかけてる・・・

サーヴァントにまでダメージ与えるか・・・藤ねえのあれは宝具級なのか?・・・恐るべしは藤ねえ・・・

「士郎!!起きなさい!!!きりきりお姉ちゃんに言いなさい!!!どう言う事よ!!切嗣さんに娘が要るって!!それに遠坂さん達とお泊り!!!挙句の果てにはこんな可愛い金髪の女の子!!極め付きにしばらく同棲!!!そんなラブコメ認めてたまるかぁぁぁぁぁ!!!」

俺の襟首掴んでぶんぶん揺する。

無理言うな・・・この馬鹿虎・・・俺は辛うじて意識はあるが全身がまだ麻痺しているんだ・・・

それでもようやく俺が事細かに話す。

イリヤとセイバーは昨夜家を訪ねてきてホテルに泊まるよりは親父の名残もあるだろうこの家に暫く滞在する事を俺が薦めた事、凛と桜については自宅が改装工事の為、家に一月程いるのでイリヤ達も安心できるだろうとなど事細かに話す。

ようやく藤ねえは納得したのだが、親父に娘がいる事が相当にショックだったようで・・・

「・・・帰るね・・・」

聞き終えるとそのまましょんぼり落ち込んで帰っていったのだった。

ちなみに皆の意識が戻ったのはその十分後の事だった。

「皆・・・生きてるか?」

「え、ええ・・・」

「ふ、藤村先生凄い迫力でしたね・・・」

引き攣った表情でそう評するのは凛と桜。

「シ、シロウ・・・あれ・・・なんなの?」

「シロウ、あれは・・・敵なのですか?」

「どういう構造だ?サーヴァントにダメージを与える咆哮など・・・」

「ゆ、油断しました・・・」

イリヤにセイバー、アーチャー、ライダーは驚愕に満ちた表情で藤ねえのいない居間を見やる。

「そう言えばバーサーカーは?」

「生きてる・・・」

事実バーサーカーは暫くして復活を遂げた。

しかし、気絶したイリヤを見て狂化寸前となり藤ねえを追撃しようとしたので俺がそれをどうにか食い止めていたが。

いくら何でも危険だ・・・バーサーカーが。

まさかと思うがそのまさかをやりかねないのが藤ねえなんだから。

「み、皆に提案だが・・・藤ねえが来た数分間は無かった事にしないか?」

「そ、そうね・・・」

「私も賛成です」

「わ、私も・・・」

俺の提案は秒速で可決された。







朝食も終わり俺達は居間でこれからの方針を話し合っていた。

「既にセイバー・アーチャー・ライダー・バーサーカー・・・つまり私達ね・・・が手を組んでいるわ。これだけのサーヴァントが同時に手を組むなんて間違いなく私達が最大勢力だって事は間違いないわね」

「そうですね」

凛の言葉に桜が肯く。

「まあ私はバーサーカーとシロウがいれば何の問題も無いけどここはシロウの顔を立てて同盟を組んでいてあげるけどね」

イリヤが意地の悪い笑みでそんな事を言う。

なんと言うか・・・凛に瓜二つだなその笑み。

一先ずイリヤの言葉をスルーして語を繋ぐ。

「で・・・残りはランサー・アサシン・キャスター。しかし、どれもマスターは不明。キャスターにいたっては何者かも、何処に潜伏しているかも不明。凛心当たりはあるか?」

「残念だけど私にもお手上げね。ただ、ここ最近の集団昏倒事件、あれは三体のうちどれかの仕業と言うのは間違いないわ」

「ああ、ガスもれが原因とされる・・・」

「そうね、でも実際には大勢の人間から少しずつ魔力を搾取しているのよ。それも冬木市全体から」

「ただそれだと目星はつけられるわ。この冬木全体を搾取所として利用できるなんて七騎のサーヴァントでもただ一つ・・・」

「「「「キャスターのサーヴァント」」」」

俺達は声を揃える。

「急いでキャスターの居場所を探らないとな。このままだと一般人に被害が大きくなりすぎる」

俺は自然に体を震わせていた。

「シロウ、落ち着いてください」

セイバーの声に深呼吸をする。

「すまん。少し頭に血が登り過ぎたな。じゃあ凛、桜、イリヤ今後はまずキャスターの居場所を探ると言う事でいいな」

「ええ、私に異論は無いわ」

「はい先輩」

「私もそれで良いよ」

「じゃあ散策は夜に、二人一組で行く」

俺の提案にこくんと肯く。

「さてと、じゃあ鍛錬の続きを・・・」

そこまで言った時、玄関のチャイムが鳴った。

「??誰だ?」

「誰かお客さん?」

「いや、今日はそんな予定無い筈だが・・・」

首を傾げながら俺は玄関に向かう。

「はいどちら様で・・・」

途中で絶句する。

そこには時代錯誤甚だしい姿の二人組がいた。

体型から女性と推察されるが、その姿は一見すると修道女の様だ。

「えっと・・・」

「イリヤいる??」

俺が戸惑っていると、一方がつっけんどうな口調で口を開く。

「は??イリヤ?」

「はい、イリヤスフィール様です」

もう一方が丁重な口調で告げる。

「シロウ〜どうしたの??」

そこへ当のイリヤ本人がやって来た。

「ああ、イリヤ、お前にお客さん」

「??ああ、セラ、リズやっと来たの?」

「はい申し訳ありません」

「荷物重いし道に迷ったから」

「まあ良いわ。別に咎めている訳じゃないし」

「えっと、イリヤ彼女達は一体・・・」

「あっシロウに紹介するわね。この二人は私の世話役として一緒に来たセラとリズ・・・本当はリーゼリットって言うんだけど略してリズって呼んでいるわ」

「つまりアインツベルンの監視みたいなものか??」

「そんなものじゃないわよ。あくまでも私の世話役よ。別に向こうがどうこう言ってきても私には関係無いし。それよりもシロウ二人を入れてあげて」

「それもそうだな。いつまでも立ち話もなんだからな・・・それとイリヤ彼女達も・・・」

「ええそうよ。私と同じ」

意味深な俺の質問に意味深に肯き返すイリヤ。

「そうか・・・じゃあ二人とも荷物を出して俺が運ぶから」

そう言って俺は自然に二人が手に提げていたバックを手に取る。

「取り敢えず客間に案内するか?」

「ええ、シロウお願いね」

一先ずセラさんとリーゼリットさんはそれぞれ離れの客間に泊まって貰う事にした。







そして昼食はリクエスト通り俺が食事を作る事にした。

メニューは人数が人数に加え、新しい同居人の部屋の準備に追われたせいで、それほど種類は作れなかったのでシンプルに天ぷらうどん。

ただし麺からつゆ、天ぷらまで全て俺の手作りであるが。

何しろ『美味いうどんを食べたい』この一言で俺にうどんの本場、讃岐まで修業に行かせ、挙句には『一週間で達人となれ』等とほざく理不尽が肉体を得た様な連中を満足させなければならなかったから・・・

最も本当にそれになる俺も俺だろう。

だからこそあの人達を調子つかせてしまうのだから・・・

で、評価はと言えば無論と言えば無論だが

「美味しい」

「うん、美味」

「士郎、・・・あんた今まで手を抜いていたわね・・・くっ・・・負けた」

「先輩これの作り方教えて下さい」

「シロウ!!お代わり!!」

と気合を入れて作っただけに皆に好評(?)であったが中でも

「うっ・・・うううっ」

セイバーは涙すら流して食事を続けていた。

「この様な・・・この様に食事とは心すらも満たされるものだったのですか・・・シロウ・・・素晴らしいです。この様な絶品を食せただけでも私は現代に召喚された甲斐が・・・」

嬉しい反面、一体生前セイバーはどの様な食生活を送って来たのだろうか?

何か哀れみすら覚えてくる。

食事も終わり後片付けを済ませた時、再びインターホンが鳴った。

「あれ??」

「シロウまたお客さん??」

「その様だな」

しかし誰だろうか?

内心首を傾げながら玄関に向かうとそこには

「やあ衛宮」

「慎二??」

なぜか慎二が立っていた。

「ようどうしたんだ?珍しい・・・と言うか初めてだな。お前が俺の家に来るなんて」

昨年や今年の弓道部の新入部員歓迎会の時すら来なかったと言うのに。

「まあね。今日は少し用件があったんだ」

「用事??何だよ急に?」

「決まっているだろう?衛宮・・・聖杯戦争絡みでさ」

その瞬間グローブに手を伸ばしかけるが止めておく。

ようやく気付いたが慎二の周囲に二つの尋常ならざる気配がある。

おそらくサーヴァント・・・

敵意は持っていない為家を覆う結界にも感知しなかったのだ。

「シロウ!!」

事態に気付いたのかセイバーが駆け寄るが俺は手で制する。

「心配するな。どうやら本当に話しに来ただけの様だ。セイバー、凛と桜、イリヤを居間に呼んでくれ」

「それには及ばないわ士郎。もう皆いるから」

「そうか・・・慎二、取り敢えず上がれ」

「ああ、そうさせて貰うよ」







居間は緊迫した空気に包まれていた。

慎二と相対するように俺達四人がいる。

さらに、セイバー達も既に臨戦態勢に入っている。

「それにしても慎二まさかお前までマスターだったとはな」

俺は口調こそ驚いていたが内心では納得もしていた。

何しろ慎二は間桐の長男。

魔術師として訓練を受けていても何の不思議も無い。

その割には魔力がほとんど感じられないのが気になる。

俺の様に魔力封じを持っている訳でも無さそうだが・・・知識だけを継承したのか?

「それを言うなら衛宮がマスターになったと言う方が、驚いたよ」

「そうか?」

「ああ、よく周囲に隠し通せたよね。自分が魔術師だって事に」

「まあな。苦労したけどな。で慎二、今日は何の様で来たんだ?まさか世間話しに来た訳じゃあないだろう」

「まあね。話の前に紹介しておくよ。お前達姿を現せ」

慎二の言葉を受けて背後のサーヴァントが姿を現した。

一つは見覚えがある。

昨夜俺達に奇襲をかけて来たサーヴァント・・・髑髏の仮面を被り、漆黒のフード付きマントを羽織った・・・

「紹介するよ。お爺様のサーヴァントでアサシン」

「お爺様?」

「慎二、まさか間桐臓硯が?」

「そうさ、遠坂。お爺様が動いたのさ」

慎二の言葉に凛が戦慄する。

無理も無い。

間桐臓硯と言えば『大聖杯』完成時より生き続ける間桐事実上の当主。

五百年近く生き続けたその経験は俺達の予想を超える姦計を編み出して来かねない。

そしてこの『聖杯戦争』においてアサシンの称号を得る事が出来るのは『アサシン=暗殺者』のイメージを明確な物に形作った『ハサン・サッバーハ』のみ。

だが、間桐はもう一つとんでもない離れ技を演じていた。

それがもう一人の・・・陣羽織を着込んだ侍と思しき長身の男・・・いや、思しきでは無いだろう。

実際背中には異様に長い刀を背負っている。

「??慎二、そっちのサーヴァントはなんだ?見た所、キャスターでは無さそうだが」

「ああ、こっちは僕のサーヴァントでアサシン、佐々木小次郎

今奇怪な事を言わなかったか?

「慎二、今なんだと?」

「だから、こっちもアサシンなんだよ」

「な、何言っているのよ!!サーヴァントは一クラスに付き一体が基本でしょう!!なんで二体も」

「・・・間桐臓硯だな?」

「ご明察だね衛宮。お爺様はルール違反を行ってでも『聖杯』を欲しているのさ」

「それとお前今真名を言っただろう?どう言う事だ?」

「別にこいつなら真名を言ってもさほど問題は無いさ。なあ、小次郎」

「左様、私は佐々木小次郎では無いからな」

「な、何ですって?」

「どう言う事なんですか?」

「そもそも佐々木小次郎と言う剣豪は存在しなかったとしたら。かの剣聖宮本武蔵の好敵手、いやかませ犬として創り上げられた架空の剣豪だとすれば」

「つまりそのアサシンは佐々木小次郎の名を借りた無銘のサーヴァントだと言うことか?」

「そう、僕にはぴったりなサーヴァントさ」

改めて間桐の・・・いや、間桐臓硯の執念には恐れ入った。

員数外のサーヴァントを呼び出してでも『聖杯』を欲するとは・・・

「それで本題に入るけどさ衛宮、僕と・・・いや、僕達と組まないかい?

だがここで更にとんでもない事を言われた。

「なんだと?」

「これはお爺様の意思でね」

「誰の意思であろうがそんな事はどうでも良い。しかし何で俺なんだ?凛や桜、それかイリヤと組んだ方が得策だろう」

いくら最良のサーヴァントであるセイバーのマスターであるとしても肝心のマスターである俺は未熟な魔術使い。

凛や桜若しくはイリヤの方が同盟を組んだ時のメリットが大きいだろう。

「お爺様は違う意見を持っているよ。アサシン達の方もね」

「何?」

「衛宮、君は自覚が無いようだけど君はこの『聖杯戦争』におけるジョーカーなんだよ」

「ジョーカー?随分と大きな扱いを受けたものだな。大体なんで俺がジョーカーになる?昨日だってあの体たらくなんだぞ。ジョーカーで無くお荷物だろう?」

その言葉に全員が(敵味方関係無く)呆れ顔を向ける。

「なんだ、皆揃ってその視線は」

「呆れているんだよ衛宮。自分に対してのあまりの過小評価に」

「左様、人の身でありながらサーヴァントと互角の戦いを演じられる者をジョーカーと呼ばずしてなんと呼べばよいのだ?」

「うむ、私は実際戦う姿を拝見していないが、アサシン殿にあそこまでの重傷を与えられるのはただの人と思わぬが良いだろうな」

慎二に続いて背後のアサシン二人が口を開く。

「それについては私も同意するわ」

「私もです」

「シロウ強いもんね〜」

何か方向が変わってきた。

「まあそれはそれで置いておこう。で、慎二仮にもし、俺がお前達と組んだとしてどんな見返りがあるんだ?魔術師の取引は等価交換だというのが相場だと思うが」

「ああ、これもお爺様の言葉だけど、もし僕達と組んでくれるならこの冬木の地をお前にくれてやると言ってきている」

「はあ??何だそれは?冬木の地は元々遠坂の管理地なんだぞ。それを何で部外者の間桐が」

「遠坂はこの『聖杯戦争』で根絶やしにすれば良いと言ってきている。それが嫌なら遠坂達を傀儡にしたって良いんだし・・・衛宮、お前の奴隷にでもして」

「・・・なんだと?」

自分が抑えられない。

この男は今なんと言った?

「衛宮、落ち着け。それ以上殺意を出せばアサシン達も見守るだけじゃあすまない」

慎二の言葉に辺りを見渡す。

既に戦闘態勢に入っているサーヴァント六体。

おまけに俺は無意識にグローブを脱いで投影寸前まで及んでいた。

ここで戦闘に入ればマスターの俺達にも被害が及ぶ。

「・・・ちっ」

「まあそんなにカリカリするなよ衛宮。僕はあくまでもお爺様の言葉を伝えに来ただけなんだし・・・」

「それにしても、臓硯はずいぶんと気前が良いわね。その条件だと士郎に利益がありすぎるじゃない?」

皮肉げに凛が問いかける。

「お爺様は『聖杯』さえ手に入ればこの地なんてどうでも良いのさ。何しろこの地は僕達マキリには馴染まない。僕が辛うじて先祖返りの様に魔術回路が活性化したけど、このまま行けば間違いなく魔術師としてのマキリは滅亡するからね。だったらこんな土地に執着する理由なんて無いさ」

「・・・間桐先輩、自己と言うものが無いんですね・・・全て『お爺様』の伝言なんですか?」

桜が意識しての事だろう冷たい声で尋ねる。

「ははは・・・きついね。まあそう思われても仕方が無いさ」

「そうね。マキリは未だにゾウゲンが事実上の当主として君臨しているんでしょう?だとしたら貴方なんてただの傀儡なんでしょう?」

慎二は虚ろな笑みで桜の皮肉を受けとめイリヤは何の感慨も持たずそう口にする。

「さて・・・まだ聞いていなかったな。それで衛宮、答えはどうする?」

俺の答え?

そんなのは決まっている。

「慎二、お前の爺さんに伝えておいてくれ。敵になるなら上等。逆に潰してやるとな・・・最も・・・」

嘲るように鼻で笑う。

「その爺に真正面からまともに戦えるだけの度胸と力量があるならの話だが」

俺の答えを聞くとなぜか慎二が楽しそうに笑う。

「ははは・・・衛宮お前とは長い付き合いだけどそこまでむき出しの衛宮を見るのは初めてだよ」

やばい、思わず志貴と仕事している自分に・・・『錬剣師』になっちまった。

見れば凛達は俺を驚いた視線で見ている。

「まあ良いさ。僕も返事を貰ったからこれで失礼するよ。でも衛宮最後に忠告。お爺様を甘く見ない方が良いよ」

「そうか・・・忠告ありがたく貰っておく。それと黒い方のアサシン、いや、ハサン・サッバーハと呼べば良いか?」

全員の空気が緊迫する寸前に俺は取り出した短剣・・・昨夜俺が食らったもの・・・を取り出し六本全て投げ付ける。

全て急所を的確に狙ったのだが、それを無造作に全て回収するアサシン。

「返しとく」

「これはこれは・・・感謝する。だが、私の真名何処で知った?」

「大した事じゃない。この戦争の事は師匠から大体聞いた。『アサシン』は歴代の『ハサン・サッバーハ』から一人召喚される事もな」

「異常な戦闘能力に加え頭もきれるか・・・ジョーカーと呼ぶのも甘いやも知れぬな・・・魔術師殿にも早急に伝えねばならぬな」

「・・・慎二殿、努々警戒を怠らぬよう」

慇懃に一礼をしてから二人のアサシンは霊体化する。

「じゃあな衛宮」

それだけ言うと慎二は家を後にしていった。







で、慎二が帰った直後早速緊急の話し合いを始める。

「迂闊だったわね。間桐もマスターを一人位は用意しているとは思っていたけどまさか二人とはね・・・それも同じクラスに二人のサーヴァントだなんて・・・それも暗殺に長けたアサシンに偽物とはいえ佐々木小次郎ってね・・・」

凛が溜息をつく。

溜息をつきたい気持ちは判る。

ここまであからさまなルール違反をしてくるとは思わなかったのだろう。

「あらリンもう怖気ついたの?アサシンだったら別にバーサーカーの敵じゃないわよ」

凛のぼやきにイリヤが笑って言う。

「ああ、多分バーサーカーならアサシンが百体いようと敵では無い。しかし、そんな馬鹿正直な戦法を取ると思うか?」

「そうですね。父さんの話だと間桐臓硯は目的の為なら手段を選ばない正統の魔術師だと聞いています」

「むーっ、そんな事は判っているわよ。ゾウゲンが一筋縄でいかない相手だって事位」

俺の言葉に桜が肯き、さらにイリヤがむくれた声をだす。

「そうね。慎二だけならまだしもその背後には間桐臓硯がいる。あの妖怪が何を仕掛けてくるか予想すらつかないわ」

一体が引き付けている間にもう一体がマスターを暗殺する。

そんな戦法も可能だ。

「どちらにしろ間桐については暫く静観の立場を取ろう」

「私も綺礼に連絡とって次善の手を打ってもらう様にする」

「よし、間桐に関してはそれで決まりだな。まずはキャスターをどうにかする方を先決しよう」

「そうね。いくら魔術に長けていてもバーサーカーやセイバーには敵わないわ」

「はい、セイバーのクラスにおける対魔術能力は最高ランクです。キャスターがいかに優れた魔術師であっても私の敵ではありません」

「ええ、それはバーサーカーにも言える事だけど」

「後は・・・キャスターが何処に潜んでいるかだけど・・・」

「それについては見当もつかない。虱潰しに当たるしか無いだろうな」

「仕方ないわね。暫くはその線でいきましょう」

「それと士郎、さっき随分とあんたらしくない表情と口調だったけど・・・」

凛がやや言い難そうに言う。

「ああ、悪かった。向こうの言い分に少しカチンと来てな。地が出ちまった」

苦笑する。

地が出たと言うよりも奥底に封印したモノがにじみ出たと言った方が正しいが。

まだ、感情のコントロールが未熟だからな。

「そうなんですか?なんかさっきの先輩、先輩じゃないような気がして」

桜が不安がるのも無理ない、『錬剣師』としての俺は正真正銘戦闘機械と化すからな。

「シロウあの表情出来れば止めてね。私達の方が怖くなるから」

「ごめんな、イリヤ・・・」

静かにイリヤの髪を手櫛で梳いてやる。

「さてと・・・じゃあこれで話は良いか?」

そう言うと俺は道場に向かう。

「シロウ何処に??」

「ああ、鍛錬に」

「朝もやっていたのでは??」

「ああ、でも今朝のは短めに切り上げたから残りをこれからな」







そして、道場において・・・

「なあ一つ聞いて良いか?凛」

「何かしら士郎??」

「何時から鍛錬が試合になった??」

俺の前には竹刀を構えたセイバーがいる。

そして俺はと言えば長柄木刀を仕方なく構えて、その周囲には凛に桜、イリヤ達が眺めていた。

更に何でか知らないが、アーチャーにライダーが実体化してこの野次馬に加わっていた。

何でこうなったのかと言えば、鍛錬を行っているとぞろぞろと皆がついて来て、最初はそれを眺めていたのだが、暫くすると

「シロウ」

「セイバーどうかしたのか?」

「シロウの技量を実際に確かめてみたい。一手を」

そう言うと、何処からか取り出した竹刀を構える。

最初俺は渋ったのだが、それを凛達がはやしたて、半ば押し切られる形で試合の運びとなったわけだ。

「セイバー、まず間違いなく俺の負けだと思うが」

「勝ち負けは問題ではありません。私はシロウの技量の高さを肌で確かめてみたいのです」

そこまで言われると俺としてはどうする事も出来ない。

気持ちを切り替えて眼の前の相手に意識を集中する。

空気が変わったと見るやセイバーの視線が険しいものに取って代わる。

「じゃあ行くぞ・・・はあああああ!!!」

俺は掛けと共に間合いを詰めて木刀を薙刀の要領で左から右へと薙ぎ払う。

しかし、セイバーは容易く上に撥ね上げて、がら空きとなった俺の懐に潜り込み一撃を叩き込もうとする。

「!!!」

だがセイバーは直ぐにその攻撃を中止して右側の防御に入る。

その直後に俺の木刀が竹刀とぶつかる。

様は撥ね上げられた時木刀の持ち手を移行し、今度は右から左に叩き込んだだけである。

その威力のまま、俺は間合いを空ける。

「やはり実戦慣れしていますねシロウ」

「そうか??そんな事は無いだろう??」

そう言いながら俺は木刀を槍の如く突き出し、セイバーはそれを軽くいなす。

矢継ぎ早に繰り出される、セイバーの一撃を俺は木刀で弾く。

「その様な事は無い。シロウ、貴方の戦い方は実戦に慣れた者の動き、それも人以上のモノと戦った」

驚いた・・・さすがはサーヴァント、そこまで見破られていたか。

「・・・セイバー待った」

「??シロウ、どうしたのですか」

俺の待ったに静止するセイバー。

それを見届けてから俺は木刀を立て掛け、グローブを脱ぐ。

「どうも俺が悪かったようだ。お前は俺の実力を見たいんだったな?」

「はい」

俺の質問にきっぱりと答えるセイバー。

「それなら俺も今の時点で出せる実力を見せる・・・投影・開始(トーレス・オン)」

そう言って昨夜バーサーカーと戦った時に投影した方天戟を構える。

「刃は落とした。次は俺なりの全力で行く」

「判りましたシロウ」

お互いに間合いを詰める。

そして振りかぶる。

勝負は一瞬でついた。

俺の一撃はセイバーにかわされ、セイバーの一撃は見事俺の脇腹を直撃していた。

完全な負けである。

「つつつつ〜・・・満足したか?セイバー」

「はい、シロウの実力は良くわかりました。ですが、今後はサーヴァントと一対一で戦う様な事は止めてください」

「判っている。ランサーやバーサーカーの場合は特殊な例だからな。今後はまず無いさ」

「そうだと良いのですが・・・」

セイバーなぜに呆れる?

凛、桜、イリヤにライダーまで肯くな。

と言うか今日初対面の筈のセラさん達までなんでさ??

どうでも良いがアーチャー、貴様にまで肯かれるのはどうにもむかつくぞ。







夕飯も終えて(ショックがでかかったのか藤ねえは来なかった)時間に俺達は家の門の前に集まっている。

ちなみにセラさんとリズさん(本人がこう呼んで構わないと言っていた)は留守番となっている。

「じゃあ、組み分けだが」

「無論士郎は私と行くわよね。セイバーが前衛、アーチャーが後衛の理想的な陣形よ」

「姉さん、それでしたらライダーのスピードを活かした遊撃と言う陣形の方が良いと思います」

「何言っているの?リンもサクラも、セイバーとバーサーカーのコンビが一番良いに決まっているじゃない」

俺が言おうとしたら途端に自薦してくる。

「とりあえず今夜は俺とイリヤで新都方面を調べる。凛、桜は深山町を調べてくれ」

この分では夜も更けかねないのでそれを遮る。

無論二人からブーイングが上がったのは言うまでも無い事だが、『明日の見回りはメンバーを替える』との説得でようやく納得してくれた。

「じゃあ二人とも気をつけて」

「ええわかっているわ」

「先輩も気をつけて下さい」

「「シロウなら大丈夫です(よ)。私が守ります(守るから)」」

こうして俺達は二手に分かれる。

新都大橋を渡り静まり返った新都を俺達は進む。

「イリヤ、どうだ?」

「駄目ね誰もいない」

「ああ、特に結界の気配も無い・・・こちらには誰もいないようだな」

「そうなるとキャスターはやはり深山町に??」

「いや、まだそう決め付けるのは早い。ともかく戻って凛達と合流・・・」

言葉を切る。

「どうもそう簡単には帰してくれない様だ」

その途端闇の中からロールプレイングゲームにモンスターとして登場しそうな骨の人形が現れた。

数はおよそ五十。

「囲まれたか・・・セイバー前方の敵を吹き飛ばしてくれ」

「判りました」

「バーサーカー貴方は後方の雑魚を片付けて」

「―――――――――!!!」

「イリヤ念の為に俺の後ろに」

「ええ」

勝負はあっさりと片が付いた。

いや、付かない方がおかしい。

一振りごとにその数倍の敵が吹き飛ばされ、砕かれ、粉にまで粉砕される。

最良のセイバーと最凶のバーサーカー、この二人がこの様な人形に敗れるなどありはしないから。

またその猛攻の手から逃れた数匹が俺達に殺到してきたが、投影した日本刀『虎徹』で切り裂く。

「小手調べと言った所ね」

「その様だな。一旦戻ろう。凛達が気にかかる」







俺達が家に帰って来た時には既に凛達は帰宅していた。

「やはりお前達にも」

「ええ、キャスターの操っていると思われる竜牙兵に襲われたわ」

「ライダーやアーチャーさんのおかげで私達も大事はありませんでした」

お互い状況を報告してから成果を確認しあう。

まあ、成果といってもキャスターの竜牙兵に襲撃された事と、キャスターは発見できなかったそれ位だ。

「明日も引き続き行おう」

俺の言葉に全員肯いた。

それから風呂に入り、夜の魔術鍛錬を終えると、自室に入る。

部屋にはセイバーもイリヤもいない。

二人をどうにか説得してセイバー・イリヤ共に離れの客室にしてもらう事にしたからだ。

「ふう・・・色々あった・・・」

そう一言呟き俺はいつもよりも早く眠りについていった。

疲れたのかと思っていたがどうも違ったようだ。







おいで

意識が無い。

おいで

しかし、俺の身体は勝手に動く。

おいで

何かの声に導かれる様に歩く。

おいで

石段に足をかけた時、脳裏に引き返せと警鐘が鳴らされる。

おいで

しかし、身体はうんともすんとも言わない。

さあ・・・招待してあげるわ・・・早くいらっしゃい坊や・・・

気がついた時俺は見慣れた境内に立っていた。

「ここは柳洞時・・・」

ご丁寧にも靴も履いている。

しかし何で俺はここにいる??確か風呂に入り魔術訓練をして・・・そして・・・

「これは・・・まさか・・・」

予想出来る最悪の展開を呟こうとした時俺の前方二十メートル位の空間が歪む。

「ふふふ・・・坊やそれ以上進まない事をお勧めするわ」

そんな声と共に姿を現したのは黒のフード付きマントを身に包んだ女性・・・俺達が今夜散々探し回っていたキャスターのサーヴァント・・・

どうやら俺の身体はキャスターの手で完全に拘束され、挙句には支配権すら握られている。

何しろキャスターが『止まれ』、そう命じるだけで俺の身体は停止するのだから。

「これ以上進めば坊やを殺してしまうから」

そう言って嘲笑う。

と言っても、フードによって目元まで深く被っているのでその表情を窺う事は出来ないが。

「一つ聞くが俺をここに招待したのはあんたか?」

「ええ、そうよ。確認した時は焦ったわ。何しろ七騎のサーヴァントの内、四騎が同盟を結んだんですもの。おまけにアサシンは二体もいる。これでは私の勝機は皆無に近い。そこで坊や達とアサシンとを潰し合わせようかとも思っていたけど坊やを見て考えを変えたのよ」

「どう言う事だ??」

「ふふ・・・坊や、貴方ほどアンバランスな魔術師は珍しいのよ。投影と言う一ジャンルをあれほど極めながらその他の素質はまるで皆無。抗魔術に関しては一般人と同じなんですもの」

極めて痛い所を言われた・・・師匠の修行は殆ど俺の素質を伸ばす事を最重視していたからな。

もし生き残ったら師匠にそっち方面を教わろう。

本当に生き延びたなら・・・

「でも大丈夫よ。坊やを殺しはしないわ。セイバー共々私が使ってあげる」

「使う??」

「ええ、まずは貴方から令呪を奪う、それから貴方を洗脳するのよ。まあ貴方は完全に廃人になっているだろうから造作も無いことだし。そうすれば私は最良のサーヴァントと同時に規格外の人間を手に入れられる。アーチャーのマスター達は油断しているから直ぐに殺せそうですしね」

心底おかしそうに俺に説明するキャスター。

「さてと、お喋りはここまでにしておきましょう。死なないだけ感謝する事ね」

そう言ってキャスターは静かに腕を掲げ始めた。

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